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虹の彼方で
第21章 ときめきのエール
「もうちょっと見ていたかった」だの、「ありがとうございました」だの、
翼や双子君と話を始めようとしたら、
マサさんが、不意にパンと手を叩いて合図を出す。
自然と言葉を止めた私達の視線を受けて、マサさんが時計を指差した。
「一旦、締めるぞ?」
ジョニーさんが穏やかな笑みのままに「そうですね」と答える。
見れば、テーブルの料理は、ほとんど綺麗に食べ尽くされていた。
春樹君が、猫みたいに身体をしならせて腕を伸ばす。
「翼、春樹、夏樹。一言ずつ」
「は?」
「ほら、締めろ」
「えぇえ?」
今度は、翼が嫌そうな顔をしている。
私は立ち上がって、彼の背中を軽くトンと押した。
「ほーら、自分だって、注目されるの苦手な癖に」
「ちげーよ。準備してなかっただけだっつの」
仕返しに、と茶化すと、意外にも振り向いた翼の顔は真面目で、
ちょっと言い返すことが出来なかった。
もうちょっといじめ返してやろうと思ったのに、
素早く立ち上がった翼は、ソファから離れて皆を見れる位置まで移動すると
くるりと振り返って、全員に視線を向ける。
「俺は……、そんなに真面目に練習するタイプでもないし、勝つのが好きってだけで、バスケしてきたんだけど。こんな風に、ちゃんと応援してもらうことって、あんま、なくて。応援されても、正直、めんどくさいと思ってたりしたんだけど―――」
そこで、言葉を切った翼は、一瞬だけ、私と視線を合わせた。
「応援されるって、嬉しいんだなって、初めて思ったかもしんない。……頑張ります。ありがとうございました」
「お、それっぽいな。いいぞ、翼!」
マサさんが、明るい声で突っ込むけれど、私は、さっきの翼の真剣な瞳が忘れられなくて、拍手をすることも、忘れていた。
「どうよ」
「え?」
「ちゃんとキメたっしょ?」
ソファに戻ってきた翼は、私にニカッと明るく笑うと、夏樹君の肩を「ほい、バトンタッチ」と叩いて、ソファに腰掛け直す。
その後頭部を見つめて、私は、妙な感覚に包まれながら、双子君の挨拶を上の空で聞いていた―――。