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虹の彼方で
第15章 5月ラストの通り雨

深く甘いキスの波に酔わされて、

ふわふわと身体が溶けそうになる私に、

ジョニーさんは「美咲…」と、時々幸せそうに名前を呼ぶばかりで。

けれど、

その手が、私の腰から下着のゴムに潜り込みかけた瞬間、

はっとして、上体を起こすと、その手を掴んで慌てて制した。

「ジョ、ジョニー……さん?」

見れば、濡れた唇が、いつもの格好良さに色気を盛大にプラスしてて、

その顔を見下ろすだけで、胸がドキドキして声が震えたけど、

でも……、

何か、私も…、変に流されてたけど、

でも、これはおかしい……!



「ジョニーさん……」



もう一度、探るように、そっと名前を呼ぶと、ジョニーさんの表情が、ぼんやりしたものから、ゆっくり、はっきりしてきて。

長いまつげが何度か瞬いたかと思うと、

「あれ? 眼鏡……」

「あ、はい。―――――これ」

勝手に外してしまった眼鏡を渡すと、その眼鏡を片手で柔らかく握り込んだまま、ジョニーさんは何か確認するように周囲を見てから、

その視線を、私と合わせて、

それから私の口元をコンマ数秒見てから、はっと息を飲んだ。



「あっ……、僕は…」

「あの、……寝、ぼけてたん、ですよね?」

「……あぁ。その、…。……美咲ちゃん、僕は、……何を」

「その、なんか、寝ぼけて、すごい抱きしめられて……」

「それだけ?」

静かに畳み掛けるジョニーさんの声に、いつの間にか俯いていた顔を上げる。

その唇が、私とのキスで濡れてるのが視界に入って、

答えに、詰まってしまう―――。

「やけに、リアルな夢だと……、あぁ」

後悔と憤りの混じった声で呟きながら、ぐっと身体を起こしたジョニーさんは、ソファに座リ直すと、軽く頭を振って深く息を吐いた。

「キス、……したんだよね。僕は、君と」

「……」

改めて言葉にされて、その行為の恥ずかしさに、ふわっと目尻が熱くなった。

知らずに手で口元を隠す私に、その動きで答えを汲み取ってしまった、その人は、苦そうに顔を歪めると、また一つ溜息をつく。

床に腰をついて座ってる私からは、ジョニーさんの苦悩の顔が、丸見えで。

どう、答えればいいか分からずにラグを見ていた私の鼓膜を、思いがけない言葉が、くすぐった。





「謝りは、しないよ」



「え?」



「謝りは、しない」






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