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虹の彼方で
第17章 バスケ部のワンコ
「タクミ……」
「飯、出来たんでしょ?」
目を丸くするマサさんの前を通り過ぎて、タクミは首を軽く揉みながら階段へ向かおうとした。
その肩を、マサさんの腕が掴む。
引き止められて、ちらっと振り返ったタクミの目が、剣呑で……鋭い。
「何?」
「タクミ。……お前、何してた」
「はい?」
「美咲の部屋で、何してたんだ、てめぇ」
マサさんの声が、強くなる。
「別になんも? なぁ?」
平然と答えたタクミは、最後に私に同意を求めてくる。
「美咲、そうなのか?」
2人の男の人の視線が、私に集まる。
どうしよう……、どう説明したらいいの?
あんな、こと……。
マサさんに言えないという思いと、それ以上に、認めたくない感覚が、言葉を奪う…。
(私、……嫌じゃなかった……)
マサさんに、助けを求めようとした、あの夜とは違っていて。
だからって、あのままで良かったと思ってたわけでもなくて……。
つかめない自分の気持ちに、妙に胸が騒いで、俯きがちに小さく頷く。
「美咲……」
何か言いたげなマサさんの低い声に、
ドキドキしながら顔をあげると、労るような表情が視界に入った。
けれど、
その奥に見えた、タクミの顔が、
一瞬だけ、すごい切なく優しく見えて。
視線を引きつけられて、また、言葉に詰まる。
「マサさん?」
その時、
時間が止まりかけた私達の空気を、
階下からジョニーさんの涼しげな声が揺らして、
私達は金縛りから解き放たれた。
すっと背中を向けて、迷いなく階段を降りていくタクミが、ジョニーさんに「腹へった」という声が僅かに聞こえた。
マサさんは、チラッと私を見てから、
顔を横に向けて、深い溜息をつく。
扉を出て、無意識にシャツの裾を直す私に振り返ると、
「本当に、何もなかったんだな?」と心配そうに目を細める。
そして、また、私は無言で首を縦に振って、嘘をつく……。
マサさんは、もう、それ以上、何も言わなかった。
「何かあれば、言えよ」と声をかけて、階段を静かに降りていった。
その背中を見送って、
私は、誰もいない廊下で目を閉じると、
衣服を綺麗に整えてから、深く深く、長い息を吐いた。