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虹の彼方で
第17章 バスケ部のワンコ
「どっちも強豪だけど、多分、加瀬北が一枚上かな。あそこはゴール下が強い。チップアウト上手いし」
「チップアウト?」
「リバウンドの時にボール叩くアレ」
あ、分かった! あれね。
「司令塔は俺がマンツーで密着するけど、他の4人も、すげー動けるんだよな。去年の印象だけど」
真剣な顔で掌を見つめた翼は、はっとしたように顔を上げて私を見た。
「あ、悪い。つまんなくない? こんな話」
「うぅん。すごい面白い。バスケ、もともと好きだし。ちょっと興味わいた」
「マジ? ……じゃあ、見に、来る?」
「え?」
「予選。……観覧自由、だし」
「うん、行きたい!」
私の答えに、翼の顔が、ふわっと明るくなった。
「土日だし、マサさんとジョニーさんも誘ってさ。春樹君と夏樹君の試合も、見たいなって、ちょっと思ってたの」
「あ、……そっか」
「うん」
ほんのすこし、翼の声がトーンダウンした気がするけど、首を傾げたら、その顔には笑みが戻ってた。
「来んの?」
と、背後から聞こえた声に、階段の方へ顔を向けると、そこには肩にタオルをかけた春樹君がいた。
「試合、見にくる?」
「うん。……見に行っても、いい?」
「別に、構わねーけど」
へぇ、と何か納得したような声を漏らしながら、春樹君は、それ以上、会話を交わすこともなく、パタンと扉を閉じた。
でも、今、ちょっとだけ笑ってた、よね?
私が行くって言った時、彼の形の良い唇が、一瞬だけ和らいだ気がした。
「ねえ、今、春樹君、喜んでたよね?」
「……ん? あ、……あぁ」
嬉しくなって翼に問いかけるも、
翼は何故か春樹君の部屋のドアをじっと見つめてて。
思い出したようにコッチを見たかと思えば、私の手を急に握る。
「え? 何!?」
「お前、ここにいると冷えねー?」
言われてみて、あぁ、たしかに手が冷えてる…と気づく。
いや、そうだとしても、
確認方法、原始的すぎるでしょ……!
もう、動物的っていうか、ワンコだなぁ。
よし!
「ね、翼。下、いこ? 地区予選、皆で行こうよって誘いに」
握られた手を持ち上げて、逆に私から握り返すと、
軽く上下に振ってみせてから、私は翼に笑いかけた。
ちょっと面食らってから頷いた翼と一緒に、私達は階段を下りた。