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虹の彼方で
第18章 7色の夜
1階では、夏樹君がカレンダーに地区予選の日程を書き込んでた。
予選の日は、マサさんもジョニーさんも空いているので、一緒に試合を見に来てくれることになったのだけど、タクミは仕事があるから、日曜の午後に行けたら行く、という返事だった。
そういえば、タクミって、何の仕事してるんだろ?
知りたいと思ったけれど、その問いかけよりも、夏樹君の言葉にサッと心が冷えるのが早かった。
「そういえば。美咲さんは、一人暮らしの家は、探し始めたんですか?」
「……え」
「梅雨時に物件を見て回るのは、大変かと思うのですが」
「……」
思わず黙り込んだ私に、翼が会話を引き継ぐ。
「つか、夏樹。お前のばーちゃん、なんて言ってんだよ」
「……。祖母の言葉は、以前お伝えした通りです。お金は頂いているので、特にこちらから期限を指定するつもりはありませんし、美咲さんの希望に沿って、対応いたします」
「じゃあ……、美咲が残りたいなら、ずっと残ってられるん、だよな?」
「まぁ……、そうですね。彼女が、それを望むのでしたら」
その言葉に、翼が私に顔を向けた。
プツッ―――
背後でテレビの消える音に、振り向くと、
ソファに座っていたマサさんがリモコンを持って、こちらを見ていた。
隣に座ってるジョニーさんも、優しく微笑みながら私を見てて。
ラグに胡座をかいて、テーブルに肘をついているタクミの視線も、私に向いてる。
「どうだ、美咲」
「え?」
「2週間くれぇか? この家に来て」
「あ……、はい」
「ちょっとは慣れたか」
マサさんの問いに、黙ったままコクッと頷く。
どう、言葉にすればいいんだろう……。
優柔不断に囚われかける私の視界の隅で、夏樹君が一礼した。
「僕は、結論だけ分かれば構いませんので」
「……」
振り向くと、綺麗な顔が、微笑んでいた。
目があった夏樹君は、目礼だけして出ていこうとして、
ふと立ち止まって振り返る。
「美咲さん」
「はい」
「僕は、貴方に出ていくようにと告げているわけでは、ありませんので」
「え……」
「貴方の納得の行く決断が出るようにと、思ってます」
整った顔立ちに怜悧な笑みを浮かべたまま、
夏樹君は、背を向けて、リビングを出て行く。
納得の行く、決断……。