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虹の彼方で
第19章 掌の温もり

「ちょ、マサさん!?」

「馬鹿。変な勘違いしねーで、動くな。襲うぞ、こら」

「や、……そんな! その……」

慌てて壁際に逃げようとした私に、低い声で恫喝したマサさんは、大きな掌で私のお腹を触って。

触って……。

止まっ、た―――?

「あ、の……」

「ちったぁ、温かいだろ。この時期は、カイロも湯たんぽもねぇしな」

「え……」

制服のシャツ越しに感じるマサさんの掌は、大きくて温かくて、じわっと広がる温もりにお腹の痛みが少しずつ楽になっていく気がした。

「ったく、今度きつかったら、腹巻きでも巻いていけ」

「や、……やだ、かっこ悪い、です」

「おうおう。女子って奴だな」

低く笑ったマサさんは、反対の手で私の頬に触れた。

ビクッと震えた私に構わず、頬を撫でて摘んだ手は、そのまま首筋に降りる。

太い指で、顎の下辺りを確認するようにグッと押してから、マサさんは手を離した。

「やっぱり、ちょっと冷えてんな。まぁ、脈は普通っぽいから、温めたら楽になんだろ」

「うん……」

マサさんの言葉に、私は、少しずつ心地よくなる感覚に任せて、頷いた。

「ねみぃか?」

「ちょっと……」

瞼がとろとろしてきた。

身体は辛いけれど、さっきよりは緩やかに眠りにつけそう。

そう思ったら、マサさんが布団をまくって横になりやすくしてくれる。

横向きに、マサさんの方を向いて寝転がる。

右を下にするのが、消化にいいんだよね……。

(あれ? 左だっけ?)

布団の中に潜り込んだマサさんの手が、腰に、そっと添えられた。

重すぎないのは、マサさんの気配りだと思う。



「マサさんて……」

「あぁ?」

「やさし……ぃ……」



最後の言葉は、ちゃんと声になったか分からなかったけど、

夢うつつのまどろみの中で、

額の辺りに、ふっと温もりが、触れた気が、した……。





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