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虹の彼方で
第5章 バスタイム
「ったたた」
室内には薄いカーペットが敷いてあるけど、硬さはフローリングそのもので、流石にお尻の痛みに顔をしかめてしまう。
誰?
っていうか、そっか、ドアが軽いの、あっちから開けようとしてた人がいたからか!
「うわ、ごめん美咲。平気?」
そう声をかけてきたのは翼だった。
彼もバスタイムは済ませた後なのか、青いストライプのパジャマ姿で、少し顔が上気してる。
苦笑しながら立ち上がり、心配そうに片手を差し出してる翼に、私は小さく笑って頷く。
「だいじょぶ。ちょっと、痛かったけど」
彼の手を借りて上体を起こすと、立ち上がってジャージの裾を軽く整える。
「えっと……、どしたの?」
部屋の中を見られるのが気恥ずかしくて、全開だった扉を自分の身体近くまで引き寄せつつ尋ねると、彼は相変わらずの明るい笑みで口を開く。
「ん? んー、なんとなく。初日で緊張してるだろうし、話したいなーって。あと、何か困ったことないかな、とかね」
「え」
「美咲は、ああ言ってたけど、俺は、もう美咲はクルルン荘の一員だと、思ってるし」
屈託なく満面の笑みで告げられて、ちょっと面食らう。
「あ、もちろん、美咲が出て行くまで、ってことで、全然かまわないんだけどさ」
私の表情の変化に気づいたのか、翼が慌てて言い直すから、思わず笑ってしまった。
「なんか、翼って、ちょっと犬みたいだよね」
「あー、それ良く言われる。なんか、いつも尻尾振ってそうって」
「っふふふ。おすわり、って言ったら、お座りしてくれる?」
「ははは。おっけー、するする。あ、でも、フローリングは冷たいから、出来ればそっちが嬉しいかなー、とか」
だめ?と聞きながら、ちらっと私の部屋のカーペットを視線で示す翼は、身体の大きなゴールデンレトリバーみたいで、ちょっと可愛い。
どこか照れくさくて、無意識に自分の髪を撫でてたら、ドライヤーは後回しでもいいかな、って思えてしまった。
「おっけー、どうぞ」
彼を部屋に招き入れると、私は扉を締めた。