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虹の彼方で
第7章 2時のココア
「何事件だよ」
「……ん、……誰かに、身体を……触られた、の」
「へぇ? ……で?」
「え……」
「そんだけ?」
「そんだけ……って何!? 私、キキキ、キスだって、されたんだから! しかも、ファーストキスだったのに!?」
「ふーん」
うわー、何このリアクション!
分かってたけど、この男、本当に頭おかしい!
血が通ってないんじゃないの? 切ったら緑の血とか出てくるんじゃ!!
「な、な………!」
「まぁ、落ち着け、お子様」
頭に血が上りかけた私に、金髪は子供に言い聞かせるみたいに優しげな声で言った。
「安心しろ。お前の寝込み襲った奴だって、たまたま欲求不満で、仕方なくお前に触っただけだろ? どうせ、途中で、お前の貧弱な身体に気づいて、萎えて辞めてたっつの」
「……!」
「それに……、ファーストキスなんて言っても、誰としたかも分からない奴、カウントすんなよ」
ドキッとした。
急に、何かまともなこと、言い出した気がする。
違う?
「お前のファーストキス奪っちゃったなんて、犯人、可哀想だろうが」
うん、違う。違った。
「あんたって、ほんと、最低」
「はいはい」
「女心を傷つける天才」
「おー、光栄、栄光」
「褒めてない!」
悔しくて言い返したら、喉の奥で笑った金髪が立ち上がり、私の手からマグカップとゴミを没収する。
生ぬるくなったココアは、残り少なかったけれど、取り上げられると、何かちょっと、寂しくなった気がした。
そのまま金髪は部屋の扉まで行くと、そこで足を止めて壁により掛かる。
「で? いつ出てってくれんの?」
「え……」
聞かれて思い出す。
あの部屋に戻ったら、犯人が、まだいるかもしれないんだってこと。
途端に、怖くなって、膝を抱える手に力がこもった。
「言っとくけど、一緒に寝るとか、万一(まんいち)どころか、億一(おくいち)以上の確率で、ねーから」
「……わ、かってる…」
「じゃ、早くご帰宅ください、お嬢様」
台詞は執事なのに、テンションは絶対君主みたいな、恐ろしく上から目線な声で言われて、私は、ぎゅっと唇を噛みしめた。