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虹の彼方で
第8章 ファーストキス



絡んだ指が、するりと抜けて、ふっと身体の上が軽くなった瞬間、

目を開けた私は、

至近距離でタクミの視線を受け止めた。

細い目。

切れ長で、刃物みたいな目。

視線だけは絡んだまま、彼は、ゆっくり身体を引いて、唇を離していく。

互いの間に、唾液の糸が、細く線を描いたように見えた。

でも、私は、何故か、彼から目を離せなくて。

タクミも視線を離さないまま立ち上がると、最後に私の唇に、何故か、もう一度だけ、チュッとキスをした。

「うまかった」

微笑んで部屋を出ていこうとする彼に、急に何か寂しくなって、私は咄嗟に口を開く。

「な、なにが?」

あ、声が裏返った……! 恥ずかしい!

馬鹿にされる……!?

けれど、タクミは、嫌味一つ言わずに黙ったまま扉に手をかけると、振り向いた。

「なにって、ココア。決まってんだろ?」

しれっと言いながら、口端に笑みを浮かべて部屋を出て行く。

「な、……にそれ!」

もう!!!!

なんだか、カッとなって、思わず、枕を閉じた扉に投げつける。

小さな笑い声が、聞こえた気が、した。



ココアって!

何、その言い方!

その、なんというか……!



もうッ!



怒って言葉を失いながらも、枕を取りに行くしかないから、仕方なく扉の方まで戻ると、

大きめの枕を拾い上げた瞬間、

扉の外から声が聞こえた。



「美咲」

お、どろいた……!

透視でも、してたの?

目を丸くして、何故か息を潜めた私の耳に、タクミの密やかな声が届いた。

「鍵、しめろよ?」

「……うん」

「おやすみ」

「お、やすみなさい」

扉越しのタクミの気配が、そっと消えていくのを、私は枕を抱きしめたまま、ぼんやり感じていた。





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