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虹の彼方で
第8章 ファーストキス



   *  *  *



「た、くみ……、ひゃっ、んっ……」

指示されたとおりに名前を呼べば、返事のように、耳朶に甘く噛みつかれた。

ピリピリッと痺れる感覚に、身体が跳ねるのに、重なったタクミの身体が、私を押さえつけてる。

自由な手で、彼の肩を持って引き剥がそうとしても、さっきから、指に力が入らない。

「美咲……」

「ぁ……、んっ」

初めて、名前、呼ばれた……?

そう思う間もなく、また唇が降り落ちてくる。

何度も喋んで、舌先をかすめ合って、その舌を追いかけようとすると、笑いながら逃げるのに、拗ねそうになると深く絡まってくる。

時折、心地よくて、目を閉じかけて―――。

あ、私……、キモチイイんだ……。

そんなことに気づくと、さっきからトクントクンと暴れてた胸の甘い痛みが、尚更、強く鳴る気がして。

溶けそうになって……。

「考え事かよ?」

「……ちがう、の……」

余裕そうに笑みを浮かべたまま、唇を離したタクミが、私を見下ろしていた。

私は、ぼーっとしかけた頭を軽く振って。

なんて言えば伝わるのかな、って考える。でも、頭がまとまらなくて…。

「キモチ、イイ……って、思ってた」

「へぇ? ガキにしては、通じゃん、お前」

ガキじゃないし…。

それに、その言い方、すごい、高飛車……。

そう思うけど、言い返す前に、また重なった唇に、とうとう私は目を閉じてしまった。

「ふ……ぁ、あ、……たく、み…」

互いの唇の間から、時々、クチュクチュ…と唾液が絡まる音が聞こえる。

タクミが、ゴクッと喉を鳴らす音も、聞こえて。

彼の左手が、私の右肩からシーツを滑って下に降りると、私の指に絡まった。

「ぁ……、んっ……」

甘く、鼻をならして、私からも、タクミの唇を迎え入れる。

気づくと、口に残ってたココアの味は、キスの味にとって変わられてて……。

これが、"ファーストキス"なんだ……って、思ってた……。





身体中にまとわりついてた震えと恐怖が消え去って、

胸の中が温かくなった頃、

そのキスは、ようやく、終わりを迎えた。




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