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虹の彼方で
第9章 土曜の朝
ピピピッ―――☆
頭の傍から何かの電子音がして、無意識に左手がガサゴソ動く。
薄っぺらい小さな電子時計を手に取ると、その時間を確認して、アラームを止めた。
8時半?
っていうか、この時計、誰のだろ……。
「あ……」
はっとして起き上がると、モスグリーンの布団を剥がす。
思い出した。
この部屋、タクミの……、あの金髪男の部屋、だった。
やばっ! 部屋交換したの、バレる…!?
慌てて起き上がり、着替えようとして、着替えは自分の部屋なんだと思い出す。
わわわわわ。
どうしよう?!
周りを見渡した顔が、ふと、銀色のテーブルの上で止まった。
あれ? マグカップが消えてるし、何か紙がある……。
「なんだろ……」
近寄ると、(多分)金髪男の字で書かれたメッセージと、銀色の鍵が置かれていた。
『8時半には、全員起床して朝飯くってる。
部屋の鍵は開けっ放しでいいから、着替えて降りてこい。
それから、これはお前の部屋の鍵』
え、鍵? 私の部屋、外鍵あったんだ!
とりあえず鍵を手にして、改めてメッセージを見つめる。
そっか。金髪男、私を寝かせておいてくれたんだ……。
昨日は、あれから、何か身体がふわふわして、潜り込んだベッドの中も、いつもと違う香りがしてて、闇の中で誰かに襲われたことより、その柔らかい感覚に包まれたまま、なんとか眠りにつくことができて……。
それに、あれが、私の……
「ファーストキス……」
無意識に自分の唇を指で辿って、ハッとする。
寝起きだ!
やばい、唇かさかさだ!
あー、だめ、大変、早く、ここ出ていかなきゃ。
ちょっと迷ってから、私は机の引き出しを適当に開けると、中から赤のペンを取り出した。
紙の空白に『ありがと!』とだけ書いて、部屋を見渡す。
私の持ち物は何もないはず。
鍵だけ忘れずに握りしめると、私は、タクミの部屋をそっと抜けて、急いで自室に戻った。