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虹の彼方で
第9章 土曜の朝
急いで着替えて髪を梳かすと、シャワー室の小さな洗面で顔を洗う。
部屋に戻って、きちんとリップクリームを塗ると、
一度、部屋を見渡してから、頭を振って、胸の中の不安を否定した。
昨日、この部屋に忍び込んだ人がいる……。
でも、全員が敵じゃないんだもの。
皆がいたら、怖くない……よね?
自分に頷いてから階段をかけおりると、私は、勢い良くリビングの扉を開けた。
私が挨拶するより早く、キッチンの奥から「おはよう」と翼の明るい声がかかる。
見れば、満面の笑みで迎え入れてくれていた。
「おはよう、美咲」
「美咲ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「うす」
マサさん、ジョニーさん、夏樹君、春樹君(まだ見分けられないけど)の順番に、挨拶される。
タクミは、目があった瞬間に軽く首を傾げて目を細めただけだった。
愛想が無いけれど、それでも、昨日、私を助けてくれたのは、この男だった…。
「おはようございます」
皆に一礼してから、顔を上げた時には、もうタクミは、こっちを見てなかった。
変なの、ちょっと胸が締め付けられる。
そういえば、昨日のこと、誰かに……言ったりして、ないよね?
というか、昨日、私の部屋に勝手に入ってきた人が、いるんだよね?
タクミじゃないことは分かってるけど、誰なのかは分からなかったし、驚きすぎて体格とか覚えてない……。
(誰だろ……)
微かに緊張しながら「何か手伝うことありますか?」とマサさんに尋ねると「いいから、座ってろ」と笑われた。
昨日と同じ席に腰掛けると、翼がダイニングカウンターから身を乗り出してくる。
「美咲、牛乳と麦茶と野菜ジュース、どれがいい?」
「んー、麦茶」
「おっけー」
食卓には、既に魚(なんだろ、西京焼き?)と、切り干し大根、厚焼き玉子、たけのこの煮物、きゅうりのお新香?(塩昆布と和えてあるっぽい)が並んでいる。
翼とジョニーさんが、ご飯と味噌汁、麦茶を出してくれて。
夏樹君が、皆に箸を渡すと、朝食の準備が整った。