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虹の彼方で
第10章 後ろから
ゲームで一喜一憂する翼の声をBGMに、私は洗濯物を干していた。

何かするべきことがある、っていいなぁ。

ちょっとだけでも役に立てると、少しずつ、この家の一員になれるような気がする。

天気もいいし、庭の花も素敵。

あの赤い花、なんだろう? ツツジかな?

きちんと最後の一枚まで干し終えると(下着とか色々あったけどね!)、両腕をぐっと回して窓ガラスを閉じようとした。



その時。



ブーン―――☆



「ひゃっ!」

「ん?」

鼻先を何かがかすめて、思わずしゃがみこむ。

羽音は蜂っぽくて、正体は分からないけれど、虫が苦手な私は、おそるおそる顔をあげると「蜂、かも」と答えた。

弾みで何かに引っ掛けたのか、洗濯バサミが一つ落ちてる。

「まじ? 蜂? やべーなー。巣、つくられたら厄介だ」

ゲームを一時停止した翼が立ち上がって横に来た。

その存在に、少しほっとして落ちていた洗濯バサミを拾って立ち上がる。

けれど、その瞬間

―――!

再び、耳元で羽音がして……!

「こっち」

肩がビクッと震えた途端、翼が私の身体を後ろからぐっと抱き寄せた。

手から落ちた洗濯ばさみが庭に転がったけれど、私は、それを見つめるしか出来なくて。

片手で虫を追い払った翼は、素早くガラス戸を締める。

「美咲? 平気?」

背後から回る腕の中に包まれ、ふっと身体が熱くなった直後、心配そうに後ろから囁く翼の声が、ツキンッと心を突き刺した。

なんで?

夜のことがフラッシュバックして、心が固くなる。

「だ、大丈夫。ごめん、離れて」

「あ、ああ。ごめん」

反射的に翼を押しのけて距離を取ると、肩をポンポンと叩かれた。

あれ、どうしたんだろ…。

その手の振動さえ、ちょっと、怖いかも……。

「あぶだよ。蜂じゃないから、刺されたりしないし、大丈夫」

「そ、そっか。うん。ありがと」

お礼を言ったものの、うまく笑えない。

心配そうな翼の眼差しを伏し目がちによけながら、

私は、いたたまれない感覚に、

「ちょっと思い出した用事、済ませてくる」と、会話もそこそこリビングを後にして階段を駆け上がった。







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