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虹の彼方で
第10章 後ろから
2階へ上がって、部屋の鍵を開けた私の視界に、廊下奥の扉が動くのが見えた。
振り向くと、肩にカバンをかけたタクミが部屋を出て来るところだった。
金色の緩い長めの髪をワックスか何かで遊ばせた彼は、明るめの柄シャツとチノパンで、よそ行きっぽい格好をしてる。
(タクミは……、違うんだよね)
うん。
タクミだけは、違うって分かってて。
それに、彼は、私の部屋に誰かが勝手に入ったことも、他の皆に言わないでくれてた―――。
「あ、あの……」
鍵を締めて私の前を通り過ぎた彼に、ふと声をかけてしまう。
何か不安で、安全だって分かってる人と、喋りたくて。
でも、足を止めたタクミの表情は、少し面倒くさそうだった。
「あ?」
「い、いろいろ、ありがと…」
気まずく視線を斜め下へ流した私に、小さく溜息をついた彼は、「おめでたい女」と呟くと、伸ばした指先で、私の唇を撫でる。
「ッ……!」
「セカンド」
突然のことに目を丸くした私の視線を奪って。
彼は、ニッとシニカルに微笑むと、その口元に、私の唇を撫でた指先を寄せた。
赤い舌で、その指を舐めてみせる。
「な、……なに、して……!」
「おめでたい赤ずきんちゃん、おめでたになんなよ?」
あっけにとられて言葉がうまく出ない私をよそに、
後ろ手をひらひら振りながら、タクミは階下へ消えていった。
玄関が閉まり、タクミが出かけた音に我に返った私は、
一瞬でも「お礼を言おう」と考えてしまった自分に悶々としながら
とにかく自分の部屋へ避難した。
* * *
鍵を机に置いて、ベッドに寄り掛かりながら床に胡座をかく。
昨日の、あれ、誰、だったんだろ…。