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虹の彼方で
第11章 日曜の夜
「そ、そっか……。ジョニーさん、必ずノックしてくれますもんね」
「うん。共同生活にも必要なマナーだから、これは妹にも感謝してるかな」
「あー、たしかに……。翼とか、ノックしないし」
「翼? 彼、ここに来るの?」
「来るというか……、突撃してきた、というか…」
思わず、少し前のハプニングを思い出して苦笑すると、机に寄りかかってたジョニーさんが、身体を起こした。
右手だけ机について、上体を少し丸めて、不意に私の顔を覗き込む。
「なにか、あった?」
「や、ナニってほどじゃ、なくて……」
「うん」
わーん、蛇ににらまれたカエルっていうか、イケメンに睨まれた女子!
「その、さっき、着替えてる最中に、翼がノックしないでドア開けちゃって…」
「ほんとに?」
あー、心配そうに眉が歪むの、反則……。
どうしよ、かっこよくてドキドキして、熱くなるよぅ。
水をください、ウォーターウォーター!
「着替え中にって、美咲ちゃん、大丈夫だった?」
椅子の背もたれに反対の手を引っ掛けて確認してくるジョニーさんは、心底心配してくれてるんだと思うけど、その、顔が近くて……、胸が、高鳴っちゃって…!
「だ、大丈夫……です、下着くらい……! それに、もともとは、鍵しめなかった私が悪いんだし…!」
その言葉に、ジョニーさんは、綺麗な瞳を僅かに見開いて、
それから、何か自分のことみたいに悲しそうな顔をしてから、上体を戻した。
っわわわ、酸素、酸素!
無意識に浅くなってた呼吸を取り戻すように、一つ大きな深呼吸をする私に、「困ったね」と告げると、ジョニーさんはちらりと時計を見てから、英和辞典に手を伸ばす。
「翼のあれは、癖なんだよな。誰の部屋でもノックしないで開けようとするし」
「そ、うなんですか?」
「うん。……後で、ちょっと怒っとく」
辞典を持って扉へ向かったジョニーさんが、振り向きざまに一つウィンクしてくれるから、胸が跳ねた。
「それじゃ。僕は、もう行くね。遅くまで、ゴメン」
ドアノブに手をかけたジョニーさんに、私も椅子から立ち上がって傍まで歩み寄る。
「いいえ! 今日は、ありがとうございました」
「うん」
そのまま出ていこうとしたジョニーさんは、ドアを見つめて何か考えてから、すっと斜めに顔を傾けて、私と視線を合わせた。