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虹の彼方で
第13章 こんな夜も
私達の横で、ベンチを戻したタクミと夏樹君は、皆の服とペットボトルのゴミを集めてた。

「ちょうどいい時間だし、ここで今日は終了な」

「あー……、負けた。すげー悔しい」

「ちょっとは練習する気になったか?」

「まぁ、多少は……」

タクミと翼が、ネットの外に出ると、背後から「なぁ」と声がかかった。

「春樹、君?」

「最初痛くなくても、……後から痛みだすこともあるから。どっか痛くなったら、絶対言えよ」

「わ、分かった」

「必ず、だからな」

「うん。……ありがとう」

あ、やっぱり、シャイなのかも。

春樹君の、どこかぎこちない中にも優しい気遣いに微笑む。

気のせいか、照らされたライトの中で、春樹君の顔が、ふっと赤らんだ気がした。

と、コート奥に転がってたボールを拾い上げた夏樹君が戻ってくる。

「帰りましょう、二人共。もうすぐ12時です」

え! 嘘、もうそんな時間!?

慌てて夏樹君の腕時計を見せてもらうと、デジタル数字が"11:48"を刻んでいた。





帰宅して、お風呂に入る4人とは分かれて、私は一人、2階に上がり、

自分の部屋に入った。

なんだか……、想像を越えて、4人とも、かっこよかったし。

正直、ちょっとときめいたし、見惚れたりもした……。

あんなに本気でボールを奪い合ってると思わなかったし、

あんなに汗だくで楽しんでると思わなかったもの。





ベッド脇のサイドチェストに置かれた、小さなオレンジのライトをつけて、

部屋の灯りを消してから、

ふと、思い出して姿見の前で唇を確認した。





ちょっと切ってしまった口端は、薄明かりでは分からないくらいの小さな傷だ。

小さい傷。ちょっとした傷。

でも、春樹君が守ってくれなかったら、私は、もっと大きな怪我をしていたのかもしれない。

「優しさの、傷、だよね」

この家に来てからずっと、春樹君とは、ちゃんと話をする機会が、ほとんど無かったから、彼の優しさに触れられたのも、少し、嬉しかった。





こんな夜も、いいなぁ。

そんな風に思いながら、

私は、穏やかで静かな眠りに、潜り込んだ……。






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