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ランジェリーの勇気
第2章 破
そんな負の循環の生活を変えてくれたのは、あるひとりの年上の女性との出会いだった。
ある年、恋人のいない秋に彼女は和装の教室に通うことにした。故郷の実家の母が和服が好きで、いつか彼女は自分の箪笥を娘に譲り渡すことを夢に見ていた。そのためにも、きものの着付けができるようになっておくべきだ、と彼女は考えたのだ。
いくつかの教室のパンフレットの中から、ごく少人数で、個人宅で行われる着付け教室を彼女は選んだ。カルチャースクールなどで大人数で行われる教室では、自分の性格では気後れして質問などできないだろうと思ったからだ。授業料はかさむけれど、親切そうな婦人の教えてくれる着付け教室に、毎週土曜の午後、彼女は通った。
肌着の着かた、腰紐のゆわえかた。40代のその婦人はけっして押し付けがましくなく、丁寧に和装の正しいやりかたを彼女に教えてくれた。互いの髪の香りが匂うほど身近で接し、着付けを教えてもらいながら彼女ははじめて、自分以外の世代の女性と仲の良い友人関係を持つことができた。