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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

 それにしても、プロポーズの最中に寝てしまうとは、智子先生は何とも呑気な人だ。

「水谷さん、あの」
「あぁ、たぶん、智子さんは覚えていないと思うので、自分の連絡先を残しておきます」

 水谷さんは私が示した智子先生の電話番号を登録して、電話をかける。智子先生の鞄で、スマートフォンが振動して、切れた。

「本気なんですか?」
「自分は至って真面目に本気で智子さんと結婚したいと思っています」

 智子先生の周りの皿を片付けて、カウンターに彼女を寝かせる水谷さんの目は穏やかで優しい。
 私を見つめるときの里見くんと同じだと思い至る。

 その智子先生を挟んで、私と水谷さんは笑い合う。
 うぅ、笑顔が眩しすぎます……っ!

「智子先生は……とてもいい先生です。その格好と酒癖で誤解されることが多いようですが」
「そうなんですね。まぁ、いいですよ。これから知っていくことですから」

 水谷さんは智子先生の髪の毛をするりと梳いて、頬にかかったそれをはらう。

 赤い頬をしてすぅと眠る智子先生は本当にかわいらしい。
 その姿を嬉しそうに見つめている水谷さんは、本当に雑誌から抜け出たみたいだ。

「しのちゃん、自分が言うのもアレだけど、その刑事さんは信用できる人だよ」

 板長が私を見て頷く。
 私にも信用しろということだ。

「話せばわかる人だからな。優秀だから、出世も早いんだろ?」
「永田さん、キャリアは皆出世が早いんですよ。自分は今からですね。智子さんのためにまだまだ稼がなければなりませんね」

 水谷さんは心底嬉しそうに智子先生の寝顔を見つめている。
 一目惚れ、なのだろうか。それで結婚まで決めてしまうのだから、不思議な人だ。
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