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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第7章 しのちゃんの受難(四)

「拒否したほうがよかったですか?」
「いえ、ありがたいです。でも、俺と一緒にいるのは、嫌じゃないんですか?」

 里見くんと一緒にいるのが、イヤ?
 里見くんのことがイヤ?

 そんなことは、ない。飲食するのは悪くない。
 さっきの食事を見る限り、里見くんの食べ方は好ましいものではあるから、一緒に食べに行っても構わない。と思うのだけれど。

「別に、嫌ではないですよ?」
「……あのね、小夜先生」

 熱い吐息が後頭部にかかる。そこだけじんわり暖かい。

「俺、期待していいんですか?」
「……え?」
「期待しちゃいますよ、そんなこと言われたら」

 んー、期待されるようなことは言っていないと思うのだけれど。
 期待するような言葉があったら、申し訳ないけど、期待しちゃいけないよ。

「俺、嫌われていないんですよね?」
「ええ、まぁ、はい」

 嫌う理由がない。
 確かに、告白されて、求婚されていることには、困ってはいるけれど。
 でも、里見くんを嫌う要素にはならない。

「あぁ、でも、強引な里見くんは嫌いですけど」
「それは我慢してください。俺は必死なんです。俺だって――我慢しているんです」

 我慢、させているんだろうなとは思っていたけれど、そんなに、つらい?
 三週間も、十ヶ月も待てないくらい?

「好きです、小夜先生。愛しています」

 わ、わ、駄目だ。耳元で、その言葉は――体に響きすぎる。

 ぶわっと鳥肌が立つ。
 ぎゅうときつく抱きしめられる。腕が熱い。背中が熱い。里見くんの指が、脇を這う。
 耳の後ろに唇の柔らかい感触。

 わ、わわ、舐めちゃ駄目っ!

 熱い吐息とともに呟かれる歌に、私の体が震える。

「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな 」

 風がとても激しいので、波が岩に打ち当たって散っていく。同じように、あなたにどれだけ心を寄せても、私の想いは砕け散ってしまう。

 ――あなたに、振り向いて欲しい。
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