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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第7章 しのちゃんの受難(四)

「小夜先生、お願い」

 左肩のあたりに熱い吐息。ぬるく濡れた舌が押し当てられると、体が悦びに震える。
 だから、駄目だって、言ってるのに。
 舌がゆっくり肩を這い、指が腰のあたりを撫でる。
 だか、ら。

「流されて、いいから」

 流されていいなんて、体が欲しいなんて、里見くんが望んじゃ駄目でしょ。
 心から手に入れるんじゃなかったの? 作戦変更?

「小夜先生」
「……っん」

 唇を噛み締める。
 緩く、程度の低い刺激で、腰が揺れるなんて。声が漏れるなんて。
 羞恥より恐怖だ。恥ずかしいとかじゃない。
 ただ、怖い。

 里見くんが望んでいることを、私の体は受け入れようと準備を始めた。
 それが怖い。
 頭の中では駄目だってわかっているし、駄目だって言っているのに、快楽を覚えている体は、どこまでも欲望に忠実で、貪欲だ。

「お願い、受け入れて」

 駄目だよ、里見くん。
 君は私の教え子で、五歳も年下で、今は実習生で、学生で、だから。

『なんで駄目なの?』

 智子先生から聞かれて、私は答えられなかった。
 なんで、駄目なんだろう?
 私は、たぶん、向き合うのが怖いのだ。
 だから、問題を五年先に先延ばししたに過ぎない。確固たる想いがあるわけじゃない。
 ただ、逃げているだけだ。

 だから、怖い。
 逃げても逃げても追いかけてくる里見くんが、怖い。

 いつか追い詰められそうで――それが、今、現実になろうとしているのが、怖い。
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