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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第11章 【回想】里見くんの決断
「私、本当に里見くんのことが好き!」
「……」
「体だけの関係でもいいから!」
「……」
「お願い!」
はぁ、と一つため息を吐き出す。これだけの大声で馬鹿丸出しの告白をされたのでは、俺の名前に傷がつく。
「里見くん!」
俺が立ち止まったのを見て、椿は嬉しそうに駆け寄ってくる。テキストを手渡してくるので、それを受け取る。取り返すのは諦めて先輩から貰い受けようと考えていた俺にとっては、必要のないものではあったけれど、返してくれるならそれでいい。
「……お前、馬鹿なの?」
「馬鹿じゃないもん」
椿は頬をふくらませる。世間一般では、かわいい仕草、というものなのだろうが、俺には逆効果だ。非常に不愉快だ。
お前は何か勘違いをしていないか? 俺は、お前を受け入れるつもりは、ない。
俺と腕を組んでこようとした椿から距離を置きながら、彼女を睨む。
「迷惑だから、そういうの、やめて」
「……迷惑?」
「すげー迷惑。俺、椿と付き合うつもりはないし、体だけの関係にもならない」
「なん、で?」
「俺には好きな人がいる。俺はその人の一番でないと気が済まない」
涙を浮かべた椿を睨んだまま、俺は利用価値のなくなった彼女を切り捨てる。
「二番目でいい、なんて馬鹿みたいな考え方の椿とは、絶対に価値観が合わない。同じような価値観の人間を見つけてくれ」
馬鹿だよ、椿。
そんな考え方で、幸せになれるわけないだろ。
俺の容赦のない返事に、ここが中庭であることすら忘れて号泣する椿。
彼女の泣き声を背にして、俺は安息の地を求めて歩き出す。
俺の欲しい人はずっと一人だけ。
小夜先生だけが欲しい。