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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
里見くんが静かに右手を伸ばしてくる。びくりと体を震わせた私の頬に手を寄せ、髪をそっとよけて、その奥の耳たぶを見つめる。
彼が見つめているのは、昔買った白い安物のピアス。目立たなくてちょうどいい。礼二からもらってずっとつけていたピアスは、アクアマリンの淡い水色だった。
「小夜先生」
目を細め、里見くんは笑みを浮かべる。
「俺は小夜先生のことが好きです。俺が教師になれたら、結婚してください」
無理です、と言おうとした唇を人差し指で軽く塞がれる。優しく暖かな指先が唇に触れただけなのに、一気に熱が生まれる。唇が、頬が、熱い。
「今は無理でも、来年、答えを聞かせてください。俺、努力しますから」
「……」
「で、受け取ってもらいたいものがあるんですけど」
里見くんはジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出した。白いビロードのケースの中身は、指輪ではなく。
「……ピアス?」
「水色や白よりは、先生にはこちらのほうが絶対似合います。シンプルだし、学校につけてきても文句は言われないと思います」
「でも」
「ホワイトゴールドなので、アレルギーも大丈夫だと思います。明日からつけてきてくださいね」
里見くんは私が受け取ったのを確認して、微笑んだ。
「楽しみにしていますから」
「……ありが、とう」
喜ぶ里見くんに、私は曖昧な笑顔でしか応じられなかった。