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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
里見くんが受験生だったときに、特別彼に目をかけていたわけではない。国語準備室では、小論文の添削指導で人が溢れることもあったから、里見くんだけが入り浸っていたわけではない。
教師に恋をして、フラれてしまっても、思い出話にできるくらいの恋に落ちることだって、大学ではできるはずだ。できたはずだ。
「……そっか、同じなんだ」
私は結局伝えなかっただけで、里見くんは伝えた。それだけの差。
ピアスをビロードの箱に戻して、お湯が沸いたと告げる浴室へ向かう。
何となく、納得できた。彼は私だ。先生に恋をしたことは、同じ。
積極的になれなかった私。積極的な里見くん。それだけの、差。
「高浜先生なら、なんて応えてくれたかな」
今は中等部にいる先生を思い出して、苦笑する。
名前だけでなく、顔すら覚えてくれていなかったんだから、きっと玉砕だっただろうな。