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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第13章 しのちゃんの受難(八)
「――で、ヤッちゃったわけね」
「ヤッ……ヤラれた、というほうが正しいけど」
「どっちでもいいわよ。前の男とヨリさえ戻らなきゃ」
梓は真っ先に報告書の最後の項目を確認し、消しゴムで消した。鉛筆で薄く書かれていたから、消しやすいだろう。
「総合的に判断すると、いい人材だということよね?」
「うん。教師には向いていると思う。いい教師に導くには、佐久間先生のシゴキと、私や他の先生方からの教育が必要になると思うけど」
「わかった。じゃあ、近いうちに面談するわ。たぶん、彼の意志は変わらないと思うけど」
学園が経営難だとは聞かないけれど、求人を出す予算と労力が消えたので嬉しいのかもしれない。梓はにんまりと笑う。
けれど、すぐに表情を戻して、いや、少しだけ硬くなって、梓は私を見る。
「これは、ハラスメントに当たるのかもしれないから、話半分で聞いてもらっていいんだけど……妊娠は、待ってちょうだいね」
宗介はまだ学生だ。それに、来年度に結婚を予定していると言っても、私の持ち上がりの生徒たちは、来年度は受験生。受験シーズンに教師が妊娠して不都合が出ることは避けたい。何としてでも避けたい。
だから、梓の言葉をハラスメントだとは思わない。
「わかってる。今の二年生が卒業するまではきっちり面倒見るから」
「ありがとう。助かるわ。産休と育休は取ってもいいから、後任の教師の面談には参加をお願いするわね」
「うん、任せて。まぁ、ブライダルチェックもまだしていないから、自然に妊娠できるかどうかはわからないけど」
机の上の少しぬるい紅茶を飲んで、ほぅとため息をつく。
梓はきちんと学園のことを考えている。学園長代理――代理だからと言って、手を抜いたりはしない。それは、よくわかっている。