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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)

「ハグしかしちゃ駄目っ!」
「……小夜」
「ハグも駄目にしていいのっ?」
「……」

 宗介は渋々といった表情で私のスカートから手を離す。
 本当に、もう。油断も隙もありゃしない!
 私はスカートを直してスニーカーを履く。宗介は近くの椅子に座ってニヤニヤしている。

「その様子だと、研究授業うまくいった?」
「まぁ、塾でバイトもしているし、教師は目標でもあるんだから、うまくいかなきゃ駄目だよね」
「良かった。佐久間先生は?」
「一組の授業。さすがにこの時間は休んでいいって。小夜にメッセージ送ったけど、気づいてなかったみたいだね」

 スマートフォンのほうに目をやると、確かにライトが点滅している。気づいていないというか、本当に、今帰ってきたばかりなんだけど。

「明日が最後だね」
「長いようで短かった、かなぁ」
「そうだね。採用されるといいね」

 宗介が水を入れ、ケトルのスイッチを押す。ゴポゴポという音が、しんとした国語準備室に響く。
 授業の始まった学園内は、独特の空気になる。授業中の先生の声、音読をする生徒の声、校庭でランニングをする生徒の声。
 椅子が軋む音。
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