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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)
「小夜」
「うん?」
椅子の上で抱きしめられるのは、本当に変な感じ。いつも仕事をしている場所が、一気に知らないところになるかのよう。
「俺は……あなたのことを手に入れるために、酷いことをたくさんしてきた。俺はそれが正しいと思っているけど、そうじゃないと考える人もいる。もし、誰かが何か言ってきても、俺の気持ちだけは、疑わないで欲しい」
なんで泣きそうな声で宗介がそんなことを言うのか、私にはさっぱりわからない。宗介の背中を撫でて、ポンポンと軽く叩く。
「わかってる。大丈夫。疑わないから」
「うん、ありがとう……」
何となく、礼二の浮気現場を送り付けてきたのが宗介なんだろうな、と考える。
あのときは、確かに傷ついて、しんどくて、泣いてばかりだったけど、結局私は礼二を許してしまった。
知らないほうが幸せだった、と、送り主を恨んだこともあったけど、そんな気持ちは、三通目が届く頃には薄らいでいた。
礼二とはその程度の恋だったのだ。優しくしてくれたから、恋に落ちただけ。
「小夜」
ルビーのピアスを舐めて、宗介は笑う。
「小夜、好き」
ギッと椅子が軋む。湯が沸いてケトルのスイッチがオフになる。
宗介が跪くと、ちょうど私の顔と同じ位置に宗介の顔。太ももの上に置いてあった両手を、熱を持った宗介の両手で包まれる。
……近い。
宗介の目の中に、私の顔が映る。その目は潤み、頬は真っ赤になっている。
……ち、ちか。
「小夜」
キスは駄目。駄目だって――。