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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)
「愛してる」
頬に押し当てられた唇に、自然と笑みが零れてしまう。それは、キス? とても、グレーゾーンだね。
そして。
再度視線が絡んだあと、そっと、唇が重ねられる。
優しい、優しい、キス。
ただ重ねられる唇に、宗介の穏やかな気持ちだけが伝わってくる。
……あなたのことが、好きだ。そう、言われているみたい。
「小夜」
「うん」
「結婚しよう」
……宗介は毎日プロポーズでもするわけ?
「宗介、それは」
「うん、やり直し」
宗介は私を見つめる。優しく微笑んだまま。
「ここで始めなきゃ、意味がないんだよ」
「……振られた場所だから上書きするの?」
「そう。あれは振られて終わったから。また始めるには、ここじゃなきゃ駄目なんだ」
国語準備室。
私と宗介の、思い出が詰まった場所。とは言っても、私は一年目のことは必死すぎてあまりよく覚えていないのだけれど。
そんな苦い思い出も、甘い思い出に変えたい、というのが宗介の願いなら、叶えてあげたい。
「小夜」
「……はい」
「結婚しよう」
宗介の両手の中から両手を抜き取って、彼の首の後ろに回す。こつんと額を寄せ合って、宗介の泣き出しそうな目の中に私だけを映して、微笑む。
「……喜んで」
両手を宗介の体ごとぎゅうと引き寄せて、キスをする。
柔らかくて、暖かい。優しくて、甘い。私の好きなキス。私に愛を与えてくれる、私の好きな人。
「宗介」
「はい」
「……好きよ」
一瞬息を飲んでから、宗介はぎゅうと私を抱きしめる。
心臓がドキドキして、椅子が軋んで――ひどくうるさい。
宗介の顔を見られないくらい真っ赤になっているから、抱きしめ合うのがちょうどいい。