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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)
金曜日、教育実習最終日。
朝、全校集会が開かれ、教育実習生たちの別れの挨拶と今後の抱負などが語られる。
少し長く時間を取っているため、今日はすべての授業が五分短縮授業となる。
私が教育実習を終えるときは、演壇の前に立った瞬間に「しのちゃん戻ってきて!」と、クラスの生徒たちが叫んでくれて、そんなサプライズに驚きつつも、皆慕ってくれていたんだなぁと涙が浮かんだものだ。
講堂に生徒たちを誘導、着座させて、空いている席に座る。少し離れた前方の席に、佐久間先生。
彼も「最後に指導した教育実習生」がいなくなるのを、とても寂しく思っているようで、今日はため息ばかりついている。
講堂はステージと客席が分かれており、全校集会、講演会や音楽発表会、文化祭での演劇や演奏などで使われる。
入学式や卒業式も講堂で行われるので、客席は生徒と保護者が入れるだけの広さがある。
ただ、ステージはそれほど広くないし、音響や防音、照明などには予算が割けなかったようで、プロの演奏家を呼ぶには適さない、そんな場所だ。
ステージには、演壇を中央に椅子が左右に三脚ずつ並べられ、向かって左から一二三年生の順番で教育実習生たちが座っている。皆、緊張した面持ちだ。
話したいことをまとめた紙に目を走らせている実習生もいれば、客席の生徒の様子を見ている実習生もいる。
右から三番目に座った宗介は、薄暗い客席から私を見つけ出したようで――ニコニコとこちらに視線を向けている。
それを、二年四組の生徒たちは「私たちを見ている」と受け取ったらしく、「里見せんせー!」と何人かが示し合わせて叫んだので、宗介が手を振って応じる。