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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)
「意味がなさそうなことでも、絶対に意味があります。今のうちに選択肢を増やしておいて、岐路に立ったときに、いくつかある道の中から、ベストな選択をしてください。自分からは以上です」
そして、稲垣くんが大石先生と教職員への感謝の言葉を述べたあと、演壇上でペコリと頭を下げる。
その一瞬の間のあと、大きな拍手が沸き起こる。
本当に、いい別れの言葉。
もう自分の道に迷わないのなら、自分で自分の道を決めることができるなら、大丈夫。私たち教師ができることは、ない。
なんだか、卒業式のような気持ちだ。
ずっと見守っていた生徒たちが巣立っていくような、そんな気持ち。
寂しい、なぁ。
胸の中にぽっかり穴が開いてしまった気がして、とても寂しい。
でも、稲垣くん、頑張れ。
そして、お疲れ様でした。
◆◇◆◇◆
次は長尾さんが嗚咽を堪えながら話をする。
途中「長尾ちゃん、頑張って!」と声をかけられて、ようやく笑うことができた彼女は、「絶対に教師になります!」と宣言して挨拶を終えた。
千葉さんは淡々と別れの挨拶をする。
彼女は教師になるとは宣言しなかったし、心を揺さぶるような言葉もなかったけれど、慕われてはいたのだろう、最後に頭を下げたときに「千葉せんせー!」と呼ばれ、ハンカチで目尻を拭ってから着座した。