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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第15章 しのちゃんの受難(九)
「それでは、里見宗介先生、お願いします」
「はい」
その瞬間に、近くに座っていた二年四組全員が立ち上がり、「里見先生、ありがとうございました!」と頭を下げた。
佐久間先生も知らなかったのか、驚いている。もちろん私も。
宗介は少し驚いたあと、「こちらこそありがとう。着席してください」と四組の子たちを座らせる。
「里見宗介です、二年生の数学を教えてきました。稲垣先生が言っていた通り、正直に言うと、数学は生きていく上ではあまり意味のないものです。算数ができればたいてい生きていけます」
生徒たちは笑う。佐久間先生――も、笑っている。一年三年の数学教師も苦笑いをしている。
とりあえず、怒られはしないようだ。よくある数学ジョークなのだろうか。
「でも、人生において、数学が必要な人もいます。例えば、自分のように数学の教師になろうとしている人にとっては絶対に必要なものです。しかし、自分は数学が大好きだというわけではありません」
あ、へえ、そうなんだ。それは知らなかった。
「自分は教師という仕事に興味を持っていただけで、教科にはあまりこだわりがありませんでした。だから教育学部へと進学しましたが、稲垣先生のように選択肢が多い大学へ進学することも一つの道です」
まぁ、さすがに「篠宮小夜先生を手に入れるために教師を目指しました」なんて言ったら、今後の教師生活に支障が出るし、せっかく得られた生徒の信頼もガタ落ちだもんなぁ。
稲垣くんのことを引き合いに出しながら話すのは、いいと思う。
あれはいいスピーチだったから。