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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第16章 しのちゃんの受難(十)
放課後、職員室と会議室の前には、実習生と最後の挨拶をしたい生徒たちが集まって大変なことになっていた。
プレゼントや手紙を持ってきている生徒、連絡先を聞き出したい生徒……いつもの光景だ。
実習生も、日誌などを書きながらその対応に追われていた。
一際ラブコールが多かったのは、意外にも稲垣くん。
「先生になって!」と生徒たちから泣きながら懇願されていた。稲垣くんは苦笑しながら、一人一人丁寧に対応していた。
教育実習で出会い、慕った実習生から「教師にならないかもしれない」と言われた生徒たちの衝撃は、計り知れなかった。
大人になれば「そういう未来もあるし、そういう道もある」とわかっていても、高校一年生に、そんなことはわかるわけがなかったのだ。
そのとき宗介は、クラスの子たちが書いた色紙をニヤニヤと見ながら、日誌を書いていた。
宗介の隠し撮りされた写真を中央に、放射線状に生徒たちからのメッセージが載っている色紙。
私は「がんばれ」とちょこっとだけ書いたのだけれど、それがお気に召したらしい。
夜中に『がんばります』とメッセージが送られてきていたから。