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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第16章 しのちゃんの受難(十)
「篠宮先生も上がってくださいね」
権藤先生が帰り支度をして、そう言ってくれた。
私は診断テストの解答用紙を金庫にしまいながら「はーい!」と返事をする。
権藤先生が三年生の教室を施錠してくれているので、あとはもう帰るだけだ。
「じゃあ、お先に失礼しますね」
「はい、お疲れ様でした!」
権藤先生が帰り、一人きりになった職員室で、私は唸る。
コーヒーが飲みたくなってきたのだ。
玉置珈琲館まで我慢するか、国語準備室まで行くか。
さて、どうしよう。
職員室をカードキーで施錠して、足を階段に向ける。私の足は、自然と上を目指していた。
A棟三階、国語準備室。
他の国語の先生はほぼ使わない、私の城。私だけの聖域。
マグカップにドリップコーヒーを入れて、香りを楽しみながら一口ずつ口をつけ、軋む椅子に座ってぼぅっとする。
熱いコーヒーが体に染み渡る。至福のひとときだ。
部活動は昼までで終わったのか、野球部のボールを打つ音も聞こえない。
学園内にはもう誰もいないのだろう、本当に静かだ。
あぁ、疲れた……。
あっという間の三週間だった。
こんなに濃度の濃い三週間は久しぶりだ。自分の教育実習より疲れたかもしれない。
まるで、夢のような三週間だった。
夢のように想われて、夢のように愛されて……ぜんぶ、夢だったんじゃないかと思えるくらいに、足元がふわふわしっぱなしの三週間――。