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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第16章 しのちゃんの受難(十)

「小夜?」

 新聞紙にマグカップを包んでゴミ箱に入れて、宗介が……あれ? 宗介の顔が、よく見えない。あれ?

「ごめん。泣くほど大事なマグカップだった? 捨てるより、修復したほうがいい?」

 宗介のその言葉で、私は自分が泣いていることに気づいたのだ。

「宗介?」
「うん、俺。今日、学園長と学園長代理の面接があったんだ」
「へぇ」
「採用に当たっての最終的な意志の確認みたいなものだったよ。たぶん、大丈夫」

 それは、知らなかった。梓が「近いうちに」とは言っていたけれど、今日が面談だったんだ。
 宗介の「たぶん大丈夫」なら、きっと大丈夫だろう。

「小夜」

 宗介の指が私の涙をすくう。涙を舐め取って、宗介は「そんなにしょっぱくない」と笑う。
 私はそっと両手を上げ、宗介はそれに応じる。
 椅子から立ち上がって、ぎゅうと抱き合って、宗介のぬくもりを感じる。
 あぁ、宗介だ。宗介だ、宗介だ……。

「どうしたの、小夜」

 どうしたんだろう。それは私が聞きたい。
 夢のような日々だったな、なんて思ったら、一気に怖くなった。

 これは、夢? それとも、現実?
 夢ではなく現実であってほしい――そんなふうに願ってしまった。
 宗介がこんなに強く深く愛してくれるのを、手放したくない、ずっともっと愛してもらいたい――そんな、浅ましい願いを。
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