この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君がため(教師と教育実習生)《長編》
第16章 しのちゃんの受難(十)
「小夜?」
新聞紙にマグカップを包んでゴミ箱に入れて、宗介が……あれ? 宗介の顔が、よく見えない。あれ?
「ごめん。泣くほど大事なマグカップだった? 捨てるより、修復したほうがいい?」
宗介のその言葉で、私は自分が泣いていることに気づいたのだ。
「宗介?」
「うん、俺。今日、学園長と学園長代理の面接があったんだ」
「へぇ」
「採用に当たっての最終的な意志の確認みたいなものだったよ。たぶん、大丈夫」
それは、知らなかった。梓が「近いうちに」とは言っていたけれど、今日が面談だったんだ。
宗介の「たぶん大丈夫」なら、きっと大丈夫だろう。
「小夜」
宗介の指が私の涙をすくう。涙を舐め取って、宗介は「そんなにしょっぱくない」と笑う。
私はそっと両手を上げ、宗介はそれに応じる。
椅子から立ち上がって、ぎゅうと抱き合って、宗介のぬくもりを感じる。
あぁ、宗介だ。宗介だ、宗介だ……。
「どうしたの、小夜」
どうしたんだろう。それは私が聞きたい。
夢のような日々だったな、なんて思ったら、一気に怖くなった。
これは、夢? それとも、現実?
夢ではなく現実であってほしい――そんなふうに願ってしまった。
宗介がこんなに強く深く愛してくれるのを、手放したくない、ずっともっと愛してもらいたい――そんな、浅ましい願いを。