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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第4章 【回想】里見くんの計画
高校三年の始業式、緊張した面持ちの小夜さんが壇上で挨拶をしているのを、俺は最高の笑顔で見つめていたように思う。
小夜さんはそのとき高校二年の副担として着任した。授業で世話になることはない。
しかし、教師なら実習生と違い、すぐにいなくなることはないし、遠慮することはない。
「国語の成績を上げたいので協力してください」と相談に来た受験生を、彼女は疑うことも面倒くさがることもせず、笑顔で受け入れてくれた。妹のことも、俺のことも、彼女はすっかり忘れていたけれど、構わない。
国語準備室が俺の幸せな空間に変わった。
同時に、学園内の情報を整理し、俺が大学を卒業するときにちょうど定年を迎える教師のリストを作った。中等部のリストも忘れない。
中高一貫だから、自分が中等部に配属させられることもあるし、小夜先生が中等部に行ってしまうこともある。
学園は、中等部と高等部で担任が違うので、六年間同じ生徒を見ることは少ない。単位数が少ない教科に限っては、中高どちらも授業をする教師もいる、という程度の認識だ。
調査した結果、高等部で定年を迎えるのは、数学の佐久間先生と、化学の大石先生。
数学か化学。
どちらが俺に合っているか、を考えて――二年の数学教師クマ先生に会いに行った。