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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

「先生」

 ホームルームのあと、クラスの生徒から声をかけられる。心配そうな表情で私を見つめる、百人一首部の生徒がいた。

「内藤さん、ごめんなさい、心配をかけたみたいで」
「先生は、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。私は大人ですから、ね」

 なおも心配そうな視線を向けてくる生徒に、私は微笑ましい気持ちになる。
 淫乱だと言われた教師を心配する生徒がいるなんて、可愛らしい以外の言葉が見つからない。慕ってくれるのは、本当にありがたい。

「里見先生は、打ち解けていました?」
「打ち解けてはいたけど、先生のことばかり聞いていたよ。部長は迷惑そうにしていたけど……一番喋ってた」

 部長っ! いらないことまで喋ってないでしょうね!?
 若干の不安が残るけれど、内藤さんも友達から呼ばれて移動教室の準備をしに教室へ戻っていってしまう。

「篠宮先生。職員室行きましょう」
「……部員の皆と何を話したんですか?」
「気になりますか?」
「私のことなら、特に」

 B棟からA棟に向かいながら、隣を歩く里見くんを睨む。彼は私を見下ろして、フッと小さく笑う。
 ……なんか、ムカつく。
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