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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「木下先生の授業はスゴイですよ。男子も女子も、ちゃんと起きて聞いていますから。なかなか難しいんですよね、生徒全員を自分の授業に集中させるのって」
放課後の国語準備室。今日も当然と言うように里見くんがやって来た。
そして、やはり、里見くんは智子先生の授業を見学していたようだ。
聞けば、佐久間先生の授業の合間に、アポを取って、一年と三年の数学の授業も見ていたのだという。
「篠宮先生の授業も見学させてください。明日は無理なので、明後日はどうですか?」
「明後日なら……四時間目がちょうど四組ですよ」
「じゃあ、明後日行きます。来週はそんな余裕もなくなりそうなので」
明後日の古典、かぁ。面白い題材だったかなぁ。
まぁ、実習生がいるからと言って、授業の内容が変わるわけではないし、緊張することもないのだけれど。
折角なら、里見くんにも参加してもらえるものがあればいいんだけど。
「来週、一時間、時間をもらえるんでしょう? 総合的な学習の時間。何を題材にするか決めました?」
「いえ、まだです。折角なので、グループトークできればいいんですけど」
「何でもいいんですよね。佐久間先生も、好きにしていいって言っていましたし。大学のことを語っても、生死について話し合わせても――」
ギシリ、と椅子が軋む。
背後から腕を回されて、背もたれごと抱きしめられる。
指がするりとブラウスの袖を這うのを、ぺちんと叩く。
「里見くん?」
「……なんで、昨日、稲垣と帰ったんですか」
責めているのか、拗ねているのか、そんな声音。意外と、悔しい、のかもしれない。