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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり」
つれない人を想うと涙が出る。
里見くんは涙なんて流さないけど、確かに私はつれない人なのだろう。
歌を詠んだあと、里見くんはすぐに私を解放して、パソコンに向かった。資料は必要か聞いても、「とりあえず自分で考えてみます」と断られた。
里見くんからアピールをしてこなければ、私の仕事が捗る。先月の図書の会計チェックも終わった。
それにしても、彼はもしかして毎日こうやって私を抱きしめながら、耳元で歌を詠むのだろうか。
それは困る。恥ずかしすぎる。
どうしたらやめてくれるのだろうか。
三週間ずっとこの恥ずかしいプレイが続くのは、耐えられそうにない。心臓も持たない。
静かな部屋に、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が響く。私は小テストを、里見くんは細案を、それぞれ作成する。
私は小テストをよく実施する。
漢字テストだったり、古文の用語だったり、ほんの五分ほどで終わるものだけれど、抜き打ちで実施するので生徒たちはいつもびくびくしている。
私が小さな紙の束を持っていたら、要注意だ。
ちなみに、小テストから何問か中間・期末試験で問題を出すので、ちゃんと復習していれば五点から十点くらいは稼げるという仕組みになっている。
私は、中間や期末だけの試験で生徒を評価したくない。
一夜漬けの知識の子もいるだろうし、毎日予習復習を頑張っている子もいるのだから、正当に評価したいのだ。