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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「酷い」
「……すみません」
「痛いです」
「……でも、あれは里見くんが悪いと思います」
玄関に置いてあった傘を取る。カーキの、かわいらしくも何ともない傘だ。
智子先生のかわいらしいブルーの傘はなかったので、先に帰宅したのだろう。
いつ飲みに誘おうかな、どこに連れていこうかな、と初めて彼女とデートに行くような男の子の心境で、隣に立ってまだ顎を撫でている里見くんを睨みつける。
里見くんが足を掴んだりしなければ、蹴り上げることもなかったのに。
「まぁ、そうですけど。蹴ることはないと思います」
「……すみません」
「次は唇を狙うので」
「ねらっ……死守します。でも、そうなったら、殴りますよ」
「望むところです」
ふふん、と里見くんが笑う。その得意気な顔がムカつく。
雨は上がっている。成り行きと流れで玄関まで里見くんと来てしまったけれど、もしかして、もしかしなくても、彼は。
「送っていきます。俺の家は方向が違いますが、変質者には気をつけないといけませんから」
やっぱり、そうなるよなぁ。がくりと肩を落とす。
里見くんは稲垣くんに対抗心を燃やす子だ。絶対にこうなると思っていたから、今日は遅くに帰りたかったのに、アクシデントもあったし、仕事が早くに終わってしまったので仕方がない。早くお風呂に入りたい。