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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

 と。足音が聞こえてくる。他の先生も帰るタイミングだったのだろう。ひょこりと顔をのぞかせたのは――。

「しのちゃん、今帰り?」

 まさか、まさかの、このタイミングで!?

「あれ、宗介。お前も帰り? しのちゃん、今日も送ってくよ」
「いいよ、稲垣は。今日は俺が送っていくから」
「は? 俺が先にしのちゃんと約束したし」
「今日は先に俺がアポ取ったから、諦めて」

 バチバチと火花が飛び散るくらいに睨み合っている二人の実習生の間で、私は途方に暮れる。
 なのに、私のために争わないで、なんて馬鹿みたいな台詞が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。

「なに、笑っているんですか」
「しのちゃん、俺ら本気なのに」
「じゃあ、仲良く一緒に帰りましょう?」

 私のために争わないで。
 なんてとてもじゃないけど、言えるわけがない。
 だからと言って、争いをじっと見ているようなこともしたくない。
 私って罪な女、などと陶酔するなんてこと、できるわけがない。

 ならば、妥協案を提示すればよいのだ。この場合の選択肢は多くない。

「里見くん、稲垣くん、送っていってください」

 二人は顔を見合わせて、頷くしかないのだ。
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