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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

「なんでお前サッカー部来ねえの? やってたじゃん、サッカー」
「やってたけど、特に好きだったわけじゃないし、今は他の部のほうが楽しいから」
「何だよ、つまんねえの。高校生に混じってるとなんか若くなった気がするぜ?」
「四歳くらい若返っても仕方ないだろ。てか、それは非科学的な事象じゃねえの? 化学の先生が言っていい台詞なの?」
「それとこれは話が別だろ」

 男の子の会話だ。うちのクラスの生徒たちとそう変わらない会話だ。二人とも、実習生じゃなくて、ただの大学生の顔をしている。
 それが、楽しくて仕方ない。

 背は里見くんのほうが少し高い。
 稲垣くんのほうが、筋肉質。
 里見くんが色白で、稲垣くんは六月なのに既に日焼けしている。
 比較してみると面白い。
 私は二人の邪魔をしないように、大人しく後ろを歩いていく。ちょっとだけ傘を揺らしたりしながら。

 たぶん、里見くんと稲垣くんは、仲が良い。進学した大学は違うけれど、高校時代はずっと同じクラスだったと言っていた。それに、同じサッカー部だったようだし。
 里見くんがサッカー部だったとは、知らなかった。
 私は、受験生だった頃の、国語準備室での彼しか知らないのだと、改めて気づく。
 それはとても、不思議な感じだ。
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