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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「誰からですか? 稲垣じゃないでしょう。高村礼二ですか?」
自転車から降りて歩き始めてすぐ、里見くんが尋ねてきた。
机の上に振動していたスマートフォンを放ったらかしで仕事をしていたのだから、気になるのは仕方がないけど。
なぜ、礼二の名前を、里見くんが?
驚き、見上げると、里見くんは優しげな笑みを私に向ける。
先ほどまでの意地悪な笑顔ではない。
「小夜先生のことなら、何でも知っていますよ。元カレの高村礼二のことも」
「な、んで?」
「邪魔だから」
端的な答えだ。
邪魔、だから、知っている。
その意味がいまいち理解できないのは、びっくりしすぎているからだろうか。
「小夜先生を手に入れるために邪魔だったんですよね。今は稲垣が邪魔ですけど」
「……」
「でも、まだ俺の邪魔をするみたいですね、彼。高村礼二に連絡し直しました?」
「い、いえ」
「それが正解です。大塚塾で何かあったみたいですよ。稲垣が慌てて出て行ったみたいなので」
私は混乱している。
教育実習期間中はバイトをしてはいけない。そもそもバイトをする暇がない。
けれど、実習中の稲垣くんがバイト先へ行かなければならないほどの何かがあった、ということだろう。
大塚塾にいる元カレから私に連絡があったのは、その関係かもしれないと、里見くんは考えたのだろう。
「……礼二が何を?」
「さあ。詳しくは知りませんが、今は塾生と付き合っているみたいなので、想像はしやすいですね」