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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

 先日までの彼と様子が全く違う。
 女にフラれたからといって、ここまで変わるものだろうか? そんなに、彼の中で私の価値が高かったとは思えないのだけど。

「小夜はまだ俺のことが好きだよな? 俺は小夜が好きだ。だから、小夜、お願いだ!」

 礼二の困った顔より里見くんの背中が視界の大半を占める中、スマートフォンを両手で挟み込んで祈るようにして、礼二は懇願してきた。
 復縁の申し込みなら絶対に断ろう、そう思っていたのに、礼二はやはり予想の斜め上をひた走る人だった。

「十二万、いや、十万貸してくれ!」

 膝を地面につき、土下座を始める礼二を見下ろして、私は、心の底から、彼を軽蔑した。

 同時に、涙が溢れそうになる。
 情けなくて。
 こんな男に恋をしていた私が、本当に情けなくて、涙が出る。

 あなたと過ごした六年間は、本っっ当に無駄、でした。
 時間を返してくれ、とは言わないからせめて、お願いだから、私に関わらないでください――。
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