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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
スマートフォンを確認すると、礼二からのメッセージは百三十件もあった。
『会いたい』
『お金を貸してくれ』
『二十万円でいいから』
『まだ俺のことを愛しているなら』
すべては読まずに、アプリを終了させた。
寮の前で礼二に会ってからは、メッセージは受信していない。
元カノが頼れないとわかったからなのか、塾生と向き合うことを決めたのか、私にはわからなかったけれど。
『稲垣からの情報によると、高村礼二は高校二年生を妊娠させたのに逃げたので、親御さんが大塚塾に乗り込んできたそうです』
予想通りすぎて、本当に情けない。
朝から憂鬱な気分だ。
スマートフォンをパソコンの隣の定位置に置いて、椅子をギシリと言わせる。
礼二の行動は、稲垣くんだけでなく、大塚塾の職員全員と、担当の生徒全員に迷惑をかけたということだろう。
当事者の女の子とその親御さんには一番やってはいけないこともやらかした。
大塚塾の塾長がどういう判断を下すかはわからないが、職員からの信頼はもうゼロであるだろうし、最低でも減給、最悪の場合はクビだろう。
自業自得だ。同情の余地はない。
スマートフォンを掴み、私はメッセージを作る。
『急で申し訳ないのですが、今夜飲みに行きませんか? 篠宮』
送ったあと、すぐに返事が来る。
『いいわよ! 行きましょ! 飲みましょ! 八時に職員室で待っているわね! 木下』
朝から結構テンションが高いんだなぁと、智子先生の顔を思い出して、笑ってしまう。かわいいなぁ。
それに、里見くんの指導もあるので、二十時に職員室とはありがたい。
私の帰宅時間まで把握してくれているとは、本当に驚いた。
『ありがとうございます。ではまた今夜』と返信すると、少し気分が楽になった気がした。
さて、あのかわいい智子先生をどこに連れていこうかなと、私は近くの居酒屋に思いを馳せるのだった。