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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「小夜先生は明日と明後日は何か予定がありますか?」
「明日は休みですが、明後日の日曜は三年生の模試監督がありますね。どうかしました?」
国語準備室。
里見くんが「小夜先生」と言うのは二人きりのときだけだ。普段は「篠宮先生」なので、私も二人きりのときだけ「里見くん」で、普段は「里見先生」だ。
「じゃあ、明日、一緒にデートしませんか?」
「しません」
「……即答ですね」
「今夜は飲むので、明日は二日酔いの予定なんです」
さっき店を予約してきた。智子先生が気に入ってくれるといいんだけど。楽しみだ。
「誰と行くんですか? 稲垣ですか?」
「木下智子先生とですよ」
「俺も一緒に行きたいです」
「お断りします」
里見くんには悪いけど、せっかく智子先生と二人きりなのだから邪魔されたくはない。里見くんはめげない。スマートフォン片手に、予定を聞いてくる。
「じゃあ、来週の土日は?」
「来週は研修で静岡です」
「……再来週は?」
「……私のスケジュール、見ますか?」
卓上カレンダーを渡すと、里見くんの表情が曇る。夏休みまで休みはほとんどない。
多忙なのだ。
先日礼二に別れ話をした日も、たまたま早くに帰ることができただけなので、デートらしいデートなんて、何年もしていないように思う。
「じゃあ、夏休みに入ったらデートしてくれますか?」
「夏休みも補習や合宿があるので、完全に休みとは言えませんよ」
「いいです。夏休みはクマ先生の手伝いで学園に来る予定なので、小夜先生にも会えますから。いつデートしますか? 八月でいいですか?」
カレンダーを撮影したあと、里見くんは顔を上げる。満面の笑みだ。
デート、かぁ。デート、ねぇ。