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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

「平日より土日がいいですか? このスケジュールだとお盆前がいいですね。じゃあ、こことここで」
「え、二日?」

 ぎょっとしながらカレンダーを受け取ると、八月上旬に、蛍光ペンのピンクのマルが二つ並んでいる。
 水曜日と木曜日。

 え、泊まり?

「飲んだら二日酔いになるんでしょう? それなら、翌日もスケジュール空けといたほうがいいですよ。日本酒と焼酎はどちらが好きですか?」

 泊まりではなく、翌日の私の体調を心配してのアポ取りなのかと納得する。
 いや、油断は禁物だけど。

「日本酒! 辛いやつがいいです!」
「じゃあ、日本酒が美味しいところに連れていってあげますね」

 里見くんが目を細めて笑った。
 なんだかんだで、彼の手のひらの上で転がされているような気もするのだけれど、不思議と不快感はない。
 嫌悪感もない。

 スマートフォンのカレンダーアプリに予定を入れていると、ケトルで湯を沸かしている里見くんが、微笑みながら私を見つめていることに気づく。
 その表情はとても穏やかだ。
 優しい目だ。

「……?」
「小夜先生は、たぶん、俺のこと好きですよ」
「え?」
「自覚して早く堕ちてきてくださいね」

 そんなわけないでしょ、そう思いながら私はスマートフォンを定位置に置く。

 里見くんを好きになるわけ、ないでしょ。
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