この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「平日より土日がいいですか? このスケジュールだとお盆前がいいですね。じゃあ、こことここで」
「え、二日?」
ぎょっとしながらカレンダーを受け取ると、八月上旬に、蛍光ペンのピンクのマルが二つ並んでいる。
水曜日と木曜日。
え、泊まり?
「飲んだら二日酔いになるんでしょう? それなら、翌日もスケジュール空けといたほうがいいですよ。日本酒と焼酎はどちらが好きですか?」
泊まりではなく、翌日の私の体調を心配してのアポ取りなのかと納得する。
いや、油断は禁物だけど。
「日本酒! 辛いやつがいいです!」
「じゃあ、日本酒が美味しいところに連れていってあげますね」
里見くんが目を細めて笑った。
なんだかんだで、彼の手のひらの上で転がされているような気もするのだけれど、不思議と不快感はない。
嫌悪感もない。
スマートフォンのカレンダーアプリに予定を入れていると、ケトルで湯を沸かしている里見くんが、微笑みながら私を見つめていることに気づく。
その表情はとても穏やかだ。
優しい目だ。
「……?」
「小夜先生は、たぶん、俺のこと好きですよ」
「え?」
「自覚して早く堕ちてきてくださいね」
そんなわけないでしょ、そう思いながら私はスマートフォンを定位置に置く。
里見くんを好きになるわけ、ないでしょ。