この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)
「だ・か・ら! しのちゃんの言う『社会人』って何なの? 大学卒業して、ちゃんと正社員で就職できたら社会人? 派遣は駄目なの? 自営業や自由業の人は駄目ってこと?」
大失敗だ。
智子先生が合コンでお持ち帰りされない理由がすぐわかった。
この人、絡み酒だ。
しかも、ビール二杯半、日本酒ちょこ一杯でこの状態だ。
智子先生と飲みに行くんです、って報告したときの佐久間先生と大石先生の微妙な表情の変化に、もっと突っ込んで聞いておけばよかった。
そしたらきっと、「あまり飲ませるな」の一言で、いろいろ察することができたのに! 私の馬鹿!
「しのちゃん、私はね、成人したら社会人だと思うわけ。だって、実名報道されるでしょう? 学生であっても、社会に出てそれなりの責任を負っていると考えるのよ。ね、おかしい? 私の考えはおかしい?」
「いや、おかしくないです、普通の考えです!」
「でしょう? だから、なんで、二十二歳の健全な男子から告白されて付き合わないのか、本当に不思議! 不思議だわ!」
行きつけの居酒屋のカウンターで、独身女が二人並んでいても、周りは結構うるさいので気にならない。
静かに話すには適切な場所ではないけれど、賑やかなほうが、この居酒屋には合っている。
「はいよ、しのちゃん、出し巻き」
カウンター越しに板長が出してくれた出し巻きを受け取って、智子先生との間に置く。
先生はひと切れ箸で持ち上げてふうふうしたあと、醤油も大根おろしもつけずにパクリと食べて破顔した。
「あっつい! 美味しい!」
「別嬪さんに褒めてもらえると嬉しいねぇ!」
「んふ、美味しい!」
「別嬪さんが目の前に二人並ぶと嬉しいねぇ」