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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

「だ・か・ら! しのちゃんの言う『社会人』って何なの? 大学卒業して、ちゃんと正社員で就職できたら社会人? 派遣は駄目なの? 自営業や自由業の人は駄目ってこと?」

 大失敗だ。
 智子先生が合コンでお持ち帰りされない理由がすぐわかった。
 この人、絡み酒だ。
 しかも、ビール二杯半、日本酒ちょこ一杯でこの状態だ。

 智子先生と飲みに行くんです、って報告したときの佐久間先生と大石先生の微妙な表情の変化に、もっと突っ込んで聞いておけばよかった。
 そしたらきっと、「あまり飲ませるな」の一言で、いろいろ察することができたのに! 私の馬鹿!

「しのちゃん、私はね、成人したら社会人だと思うわけ。だって、実名報道されるでしょう? 学生であっても、社会に出てそれなりの責任を負っていると考えるのよ。ね、おかしい? 私の考えはおかしい?」
「いや、おかしくないです、普通の考えです!」
「でしょう? だから、なんで、二十二歳の健全な男子から告白されて付き合わないのか、本当に不思議! 不思議だわ!」

 行きつけの居酒屋のカウンターで、独身女が二人並んでいても、周りは結構うるさいので気にならない。
 静かに話すには適切な場所ではないけれど、賑やかなほうが、この居酒屋には合っている。

「はいよ、しのちゃん、出し巻き」

 カウンター越しに板長が出してくれた出し巻きを受け取って、智子先生との間に置く。
 先生はひと切れ箸で持ち上げてふうふうしたあと、醤油も大根おろしもつけずにパクリと食べて破顔した。

「あっつい! 美味しい!」
「別嬪さんに褒めてもらえると嬉しいねぇ!」
「んふ、美味しい!」
「別嬪さんが目の前に二人並ぶと嬉しいねぇ」
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