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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

 板長はどんな女性でも「別嬪さん」だと言うので、信憑性はない。
 それに、一番の「別嬪さん」は彼の奥様だ。板長自身がいつものろけている。

 奥様は、ふわふわとした笑顔でカウンターとテーブル席を往復しながら、ちゃきちゃきと切り盛りしている。
 彼女から「すみません、今日は席がいっぱいで……また次回、早めの時間に来てくださいね」と言われたら、来ないわけにはいかないと皆考えるようだ。
 奥様ファンは多い。

 板長の腕も確かで、刺身は新鮮だし、揚げ物も煮物も美味しい。
 何より、出し巻きが美味しい。鉄板焼き屋の出し巻きにも負けていない。

 変な店名だけれど、夫婦二人で頑張っているこの居酒屋を、私は開店当初から大変気に入っている。

「だ・か・ら、なんで里見先生や稲垣先生と付き合わないの? なんで? 二人ともかっこいいじゃない。まだ学生だから? 別にいいじゃない。すぐ結婚するわけじゃないんだから!」
「でもね、智子先生」
「教え子だから駄目なの? いいじゃない、五歳しか離れていないんだから。たった五歳よ。何を躊躇することがあるの?」

 誰か、智子先生を止めてください。私は針のむしろです……っ!
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