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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第5章 しのちゃんの受難(三)

「……どちら様ですか?」
「申し遅れました。自分はこういうものです」

 差し出された名刺を穴が開くほど見つめたあと、智子先生は名刺を私に押しつけてきた。

 え? 智子先生? いらないの?

 見ると、水谷徹――警部、と書いてある。警察の方のようだ。先ほどカウンターで書いたのか、電話番号が記入されている。
 智子先生は興味がないのだろうか。

「水谷徹……さん、とおっしゃるんですね」
「そうです。ここの板長さんと奥様にはある事件で知り合って以来、店にはよく来ているのですが、あなたのようにかわいらしい方と巡り会えるとは、思ってもみませんでした。是非、結婚を前提にお付き合いを」

 板長に「そうなの?」と視線だけで質問すると、「そうだ」と頷きが返ってくる。もちろん、板長も驚いている。頷くのが高速だ。

 かわいらしいと言われた智子先生は、ジョッキに半分残っていたビールをぐびぐびと飲み干した。顔はもう真っ赤だ。

「水谷さん。私はかわいらしくはないと自覚しているので、お世辞は結構です」

 いやいや、あなた十分かわいいですよ、智子先生!
 飲まなければ、たぶん女子アナよりかわいいですよ!
 飲まなければ!
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