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第2章 Shooting the moon

　

――真下さん、結城さんを目で追ってるから。

　ある者はそう言った。

　……そりゃあ、あの馬鹿がまたいい友達ぶって、笑いながら傷ついているんじゃないかと心配で。だって私、結城の落ち込みにずっと付き合わされているんだよ？　人ごとにはなれないでしょう。


――結城社長だって、真下さんのところに行くようになったから。
　

　結城が私のところにくるのは、陽菜が香月のところに行っているからであって。同期の陽菜か私かの選択で、陽菜には行けないから私のところに来ただけの話であって。

　ちゃんと近くで、私達を見ればわかるはずだ。

　私と結城との間には、なにもないということくらい――。


「ねぇ、衣里。衣里の中の結城、変わってきているよね？」


　近くにいるはずの陽菜の、ストレートな質問に、思わず私はたじろいだ。

　その真摯なまでの一直線の目が、私の深層を暴こうとしているかのように強く、そして私は心を見られたくないと思って、内心動揺する。

　なぜ？
　
　いつものように一笑にふせばいいじゃない。


「き、筋肉馬鹿は筋肉馬鹿なままだよ。なに？　陽菜まで、私が結城とどうこうなるって？」

　ぎこちない笑いは、まるで空笑い。

「衣里、気づいていないかも知れないけど、最近の衣里は結城の隣に立とうとしている」

「……っ、べ、別に……」

　どくっと私の心臓が、警鐘のような嫌な音をたてる。

　香月しか見ていなかったはずの陽菜の指摘に、少なからず私の中で、思い当たるところはあったのだ。

　だからそれを隠すために、私は笑う。

　取り繕ったような、私が得意とする営業用の笑顔を、友達である陽菜に見せてしまう。


「陽菜は、そうなって欲しいんじゃないの？」

　ああ――。

「え？」

「陽菜は結城を選ばなかった罪悪感を、結城と私が相思相愛になることで、なかったことにしたいんじゃないの？」

　こんなこと、陽菜に言いたいわけじゃないのに。