この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 


「衣里……」

 陽菜の目が、悲しげに揺れた。


 だけど陽菜に、私の中の結城を見つけて貰いたくなくて。

 なにも変わっていない自分でいたくて。


「ごめん、陽菜。打ち合わせの時間なんだ。またね」


 ……そう、陽菜の口から出る結城という存在を、私は恐れているんだ。

 陽菜の中に根付く、結城が与えた愛の輪郭を。

 陽菜は愛されているという現実を。


 あの時、そう……結城が真下の家に来た時。

 私は……頭を下げて私を貰いに来た結城に、心動かされた。

 そう、私を真下の家から連れ出してくれた雅さんと同じような、奮える心を、確かに感じた。

 ……その正体を、突き詰めたくない。

 
 私は雅さんが好きで、結城は陽菜が好きで。

 それでいい。
 なにも変わりたくないから。

 私は、傷つきたくないから。


 だって――。

 ひとの心がそんなに早く変わるのなら、今まで雅さんに向けていた想いが、消えてなくなるじゃない。

 真剣に雅さんを愛していた私の九年を、こんな僅かな期間で失いたくない。たとえ雅さんから気持ちを貰えなくても、それでも私は、雅さんだけを愛していきたいの――。


「衣里……っ、あたしはそういうつもりはない。あたしの大好きな友達が一緒になるのなら、あたし喜んで応援……」

 ぎり、と胸が軋んだ音をたてて、私は陽菜に振り返る。


「……陽菜にはわからないよ。愛するひとから想われなかった気持ち。そんな簡単に次に乗り越えられるような、そんな恋愛していたわけじゃないんだよ。私も、結城も。……簡単に、言わないでくれる?」


「衣里、ちょっと待って、衣里っ」


 私は、大好きな友達を置き去りにした。

 罪悪感に胸がぎりぎりと痛むのは、陽菜じゃない。陽菜に八つ当たりをしてしまった私の罪悪感に他ならない。


 陽菜。

 結城はあんたを好きなんだよ。好きだからあんなに泣いているんじゃないか。私を気にするのなら、どうか結城を。辛くてたまらない結城を、幸せにしてあげてよ……。

 結城を本当に笑顔にさせられるのは、私じゃない。

 陽菜なんだから――。


 
/152ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ